昨日放送されたNHK新シルクロードの第7集「青海・天空をゆく」。
前半は青海省ということでチベットエリアだ。
すでにハイビジョンでは放送されており前評判は聞いていたが、さすが日中中日共同制作。
幸い「旅限無(りょげむ)」さんが、たっぷり時間をかけて料理してくださるそうだから、ここでは軽めにしておこう。
唐の王家からチベットの王家に嫁がされた文成公主という有名なお姫様がいる。
この人をどうしてもチベットと中国の“友好”のシンボルに仕立て上げよう、
そういういじらしい試みを中国は一貫して続けている。
7世紀まで溯らないと、ふさわしいキャラが見つからないからだろう。
いかに一貫して仲が良かったかわかろうというものだ。
さて、番組では、唐とチベット、吐谷渾の関係が、
美しい青海湖の風景、そして杜甫の詩(出た!)などを通して語られた後、
唐からチベット世界へ至る入口である日月山(峠)に
最近立てられたようにしか見えない文成公主の像が映る。
そしてナレーション。
>>和平のため吐蕃に嫁いだ文成公主。
>>彼女によってチベットに初めて仏教がもたらされたと伝えられています。
仏教が、じゃなくて、中国仏教が、だろうな。
“もたらされた”というのが何を意味するのか不明だが、
先にネパールからベルサ(ネパールの公主)が嫁いでいて、
インド仏教はもたらされていた、と伝えられています。
便利な言葉だ…“伝えられています”。
この2文は全体として次のような印象を与えるよう仕組まれたコピーだ。
「唐は和平を望んだのに、吐蕃が野蛮でいうことをきかないものだから、
わざわざ公主を降嫁してやった。
おかげで文字さえない文化不毛のチベットに仏教まで伝えたやったのだ、ありがたく思え」
……考え過ぎか(笑)。
>>その文成公主ゆかりの寺院を訪ねました。
というので、どこかと思ったら、
これが唐突に、ジェクンド(玉樹)の大日如来堂だ。
たしかに公主が嫁入りの途中で立ち寄ったゆかりの地だが、
直前の日月山とは軽く800キロ離れているし、
シルクロード「青海の道」とは関係ない場所にあるので意表を突かれた。
遠くまで行って何を写したかったのかというと…
>>遠く離れた土地からも、熱心な信者が、訪れています。
チベット人巡礼がいつものように五体投地している。
大日如来の像が祠られているからだ。
「文成公主廟」というテロップを目にすると、
まるで皆が漢字でそう呼んでいるかのような印象を受けるが、
現地ではビ・ナムナン、つまりビ(地名)の大日様などと呼ばれている。
ここでナレーションがかぶさる。
>>人々は大日如来に文成公主の姿を重ね合わせて祈っています。
松平さんのあの口調で言われてしまうと
本気にしちゃう人がいるかもしれない。
さっきは学術的に突っ込まれると困るから“伝えられています”だったのに、
ここだけは確かめもせず、祈っています、と断定するんだな。
観音菩薩像にダライ・ラマ14世の姿を重ね合わせるチベット人は普通にいるけど、
祈りながら文成公主に思いをはせるチベット人なんて
聞いたことがない。
つまり、こういうことか。
チベットと唐の和平の象徴だった文成公主が今も(チベット人に)慕われている、
という映像を通して、両民族は仲良くやっています、問題なんてありません!
と主張せねばならない、と思ったものの、
これといった証拠や素材もないため、
観光用に立てられた像と、800キロも離れた所にある寺を
(言わなきゃわかんないだろうから)無理矢理使った、と。
というわけで、皆様の受信料が有効に役立てられているこの番組についてのさらなるツッコミについては「旅限無(りょげむ)」さんをお楽しみに!