【本】『チベットの秘密』(ツェリン・オーセル、王力雄=著)
『チベットの秘密』
ツェリン・オーセル、王力雄=著 劉燕子=監修・ 翻訳 集広舍=刊
ツェリン・ウーセル(Tsering Woeser、唯色)は1966年、チベット・ラサに生まれた女性作家・詩人。現在、北京で自宅軟禁状態のまま、ブログ(↓)やTwitterでチベットの現状について情報発信を続けている。
“看不見的西蔵”(Invisible Tibet)(中国語)
本書は、2000年から2008年のチベット動乱を経て、焼身抗議が続く現在に至るまで、ウーセル氏がブログや著者で綴った文章を、わかりやすい日本語で読める貴重な本だ。
ウーセル氏のブログは2008年以降、チベット情勢を当事者の視点で伝えるメディアとして注目され、頻繁にチベット関係のブログ等に訳文が掲載されるようになった。が、すでに膨大な記事が執筆されているだけに、たとえば「環境破壊について読みたい」「重要な記事を時系列で読みたい」といった読み方が、すでに困難になっている。こうして的確に編集され、詳細な注釈のついた書籍という形で読めるのは本当にありがたい。
訳者・劉燕子氏によるウーセル氏についての丁寧な解説「雪の花蕊 ツェリン・オーセルの文学の力」も必読。ウーセル氏とその家族がどんな生涯を歩んできたのか、そして、なぜ執拗な中国当局の妨害にもかかわらず北京で執筆を続けているのか、本書で初めて知るという読者も多いだろう。さらに、ウーセル氏の夫である王力雄氏による論文「チベット独立へのロードマップ」も、チベット問題を理解する上で助けとなるはずだ。時に詩的なウーセル氏の文章と、研究者・王力雄氏の冷静な筆致のコンビネーションは、さすが夫婦、だ。
書名『チベットの秘密』は、ウーセル氏が2004年に書いた同名の詩に由来する。エッセイ集を発禁とされ、隠された「もう一つのチベット」があることを実感したウーセル氏は、この詩の中で「もう抒情詩は書けない」と告白し、以降チベットの現実を書き記す作家となった。本のタイトルとしてはおとなしめだが、売れ線狙いの出版社から告発調の書名で出なかったのは幸いだ。
チベットで行なわれていることは、2008年以降さすがに「秘密」じゃなくなったかに見えるが、そう思っているのは常にチベットのことを気にしている私のような者だけかもしれない。焼身抗議のニュースだってまったく知らない人のほうが多い、と肌で感じる。いくら情報があふれていても、伝わっていなければ秘密であるのと大差ない。
というわけで、数年にわたってさぼっていたブログを、今年は若干真面目に書いていこう。いつかダライ・ラマ法王がチベットに帰還する暁には、ウーセル氏に心置きなく美しい抒情詩を綴ってほしいと思う。そして、劉燕子氏に訳してほしい。
p.s.
「花蕊」という字が読めなかった。国語力を高めておかないと、将来書かれるウーセル氏の抒情詩も味わえそうにない..orz
« 【発売中!】チベット・オリジナルカレンダー | トップページ | 【本】『潜入ルポ 中国の女』(福島香織=著) »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『チベットの潜入者たち—ラサ一番乗りをめざして』(2004.04.30)
- 『DAYS JAPAN』3号にチベット/今はなき『GEO』(2004.05.18)
- 新刊『チベットを知るための50章』(石濱裕美子編著)(2004.05.28)
- 新刊『ダライ・ラマ その知られざる真実』(2004.06.26)
- 文成公主が主役のコバルト文庫『風の王国』(毛利志生子)(2004.09.19)