【新刊】ダライ・ラマ14世『ダライ・ラマ 宗教を超えて 世界倫理への新たなヴィジョン』(三浦順子=訳)
『ダライ・ラマ 宗教を超えて 世界倫理への新たなヴィジョン』(ダライ・ラマ14世=著)
三浦順子=訳 サンガ=刊
ダライ・ラマ法王の近年の一般講演の中で、伝わりにくいんじゃないか?と思っている言葉に「世俗の倫理」「世俗主義」がある。本書はまさにこれについて書かれた本。2時間程度の講演(通訳を介すので実際は1時間程度か)では語り尽くせないだろう「世俗の倫理ってそもそも何?」が、前半(第一部)約150ページで綴られている。
が、「世俗」という言葉自体に何となく引っかかってしまう方には、本文の前に、まず「訳者あとがき」から読むのことをお勧めしたい。一般的な日本人の目線で「世俗主義」について、そして本書の概要を解説してくれているからだ。その後、本文に入っていくと、ダライ・ラマ法王の描く倫理観のビジョンに馴染みやすいだろう。
後半(第二部)は、その倫理の実践編。チベット仏教では非常にポピュラーな「心の訓練」がメインだ。別の信仰を持つ人や信仰心を持たない人でも実践できるよう、心構えから瞑想の方法まで、宗教抜きで具体的に記されている。宗教と切り離した瞑想というものが実際のところ可能なのか? 私は特定の宗教に馴染みすぎているので、もはや試せないのが残念。是非どなたかトライしてみてほしい。
ところで、謝辞によると、本書の(原書の)編集チームは『幸福論』(原題“Ethics for the new millennium”・1999年。日本語版は2000年・角川春樹事務所刊)と同じとのこと。この本は『抱くことば』
(イースト・プレス)や『ゆるす言葉』
(同)のお手伝いをさせていただいた時、とてもお世話になった。今でも大量に付箋が貼ってある。たとえば最後のほうの
「寺院も教会もいりません。モスクもシナゴーグもいりません。複雑な哲学も、教義も、教理もいりません。わたしたち自身の心が寺院です。思いやりが教義です。」
あたりは忘れられないフレーズだ。
このように法王がかねてから唱え、近年とくに強調されている「宗教の枠を超えた普遍的な人の道」の集大成という意味で、『ダライ・ラマ 宗教を超えて 世界倫理への新たなヴィジョン』は決定版。しかも、その土台となっているチベット仏教を深く理解した上で、わかりやすい日本語で伝えてくれる三浦順子氏の翻訳で読めるというのもまたうれしい。
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