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2005年1月 2日 (日)

チベット人女性と初めて結婚した日本人−『世界無銭旅行者 矢島保治郎』

yajima_yasujiro年末にamazon.co.jpのユーズドで『世界無銭旅行者 矢島保治郎』(浅田晃彦著、筑摩書房)が出ていて衝動買い(1,344円)。実はまだ読んだことなかったのだった。

矢島保治郎は明治15年生まれの上州人。日露戦争から凱旋帰国した後、十年がかりの世界一周無銭旅行を企てる。1909年に横浜港を発ち(もちろん船で)上海へ。成都からダルツェド(今の康定)を経て、ラマの率いる隊商にまぎれてバタン(巴塘)から金沙江を越えた。十年ほど前に寺本婉雅と能海寛が断念したルートを運よくクリアしてしまう。著者の浅田氏は「女装して通過したのではないか」と書いている。女装写真が実際に残っているからだ。

金沙江を越えた後は、現在のようなコンポ経由ではなく、チャムドを経由してラサへ向かった。ロロン、アラド、ラリ、コンポ・ギャンダを通る旧道が当時のメインルート(『旅行人ノート チベット第3版』p.165)。1910年(明治43年)11月12日にダルツェドを発ち、翌年3月4日にラサに到着。ポタラ宮を肉眼で見た4人目の日本人となった。

が、当時、ダライ・ラマ13世はポタラにはいなかった。清国に追われてインドに亡命中だったからだ(なんだか最近の話みたいだな)。矢島もいったんインドに出た後、船員のバイトをして準備を整えた後、カルカッタからシッキムを経てチベットへ再潜入する。もう世界一周はどうでもよかったんだろう。ラサは蔵清戦争の真っ直中だったが、辛亥革命で清朝が崩壊。ダライ・ラマ13世は凱旋帰国し、1913年チベット独立を宣言した。

矢島はラサでチベット軍の指揮官のひとりとなって軍の近代化に尽くし、ダライ・ラマ13世の信頼を得た。そして、豪商の娘ノブラーと結婚して一児をもうけ、群馬県前橋に連れ帰っている。チベット人×日本人の初めての国際結婚だったが、ノブラーは来日後わずか4年余りで病死。ひとり息子の意志伸も、太平洋戦争で日本軍人として戦死してしまった。

このまま書いていると際限なく長くなりそうなのでやめておく。矢島保治郎の行程や時代背景については、チベットと日本の関係を追い続けている江本嘉伸氏の『西蔵漂泊 チベットに魅せられた十人の日本人』下巻に詳しく書かれている。また、2004年8月に毎日新聞で「大陸に消えた夢:冒険家・矢島保治郎の軌跡」が5回にわたって連載された。有料でしか読めなくなってしまったので、Googleにキャッシュが残っているものだけ↓にリンクを張っておく。
1:イシ・ノルブ
2:奇抜なる世界周遊
3:もう1つの「セブン・イヤーズ・イン・チベット」
4:チベットからの花嫁
5:長男の戦死…
昨年、前橋に江本嘉伸氏を迎えて講演会も開かれた。あと、『入藏日誌』(チベット文化研究所)っていう本があるんだけど見たことない。

「世界無銭旅行者」を名乗りながら結局ラサに沈没してしまった矢島保治郎のチベット行は、正式な留学生だったり、宗教上の志があったり、特務を帯びたりしていた他の入蔵者(チベットに入った人の意味)とはかなり趣が異なっている。その志からしてまず突拍子もなくて好感が持てるし(笑)、変装してヒッチでチベット奥地に臨むバックパッカーの原型のようでもある。ただ、やや大言壮語の癖もあったようで、あちらで色々やっている限りは“自己責任”で済んだかもしれないが、帰国してからは世間からマトモに相手にされず、結果として妻子を苦しませることになってしまった。金も地位もない人間がチベットなんかにハマるとロクなことにならないという物語の原型をここに見ることができ、身につまされる思いだ(笑)。

上記『西蔵漂泊』に書かれているように、矢島夫妻には、もうひとりラサに残してきたラティという名の女の子がいた可能性がある。ラティはおそらくノブラーの姉あたりに育てられ、本人もしくはその子息が、今もどこかで矢島保治郎の血を受け継いでいるかもしれない。

矢島一家はダライ・ラマ法王の夏の離宮ノルブリンカの敷地内に住むことを許された。ノルブリンカというのは、だだっ広いため、入口から一番遠い端っこにある13世の離宮チェンセル・ポタンまで行く人は少ない。普通、動物園まで行って呆れて終了だ。矢島は「門の左手の僧官宿舎」に住んだという。門とは、チェンセル・ポタンの門のことだろうか? 何か残ってるとは思えないけど、今度行ってみなきゃ。

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