新刊『ダライ・ラマ その知られざる真実』
『ダライ・ラマ その知られざる真実』(ジル・ヴァン・グラスドルフ/著、鈴木敏弘/訳)が、綿矢りさ景気に沸く河出書房新社から出た。河出書房新社といえば、先日、チベット人の書いた『シャーロック・ホームズの失われた冒険』(ジャムヤン・ノルブ著)を出したばかり。しかも、どちらも石濱裕美子先生が解説を寄せており、あやしくチベットづいている。さすが「チベット体操」発祥の地(笑)。
「20世紀を通じてチベットが歩んできた苦難の道をダライ・ラマ14世を中心に克明に描いた本格的なノンフィクションノベル。神秘のベールに包まれたチベット仏教と様々な謎めく事件、スパイなど、『自伝』にはない資料に富む名著」
——という版元自身の紹介にたぶん嘘はない。なんといっても、日本語でこれだけまとまったチベット現代史絡みの本が出たということが、ひとつ嬉しい。574ページとボリュームたっぷりで、比較的、広い視野で(引いた目線で)なんでもかんでも詳しく書いてくれているため、個人的には「この事件の周辺では、どんな人が出てきたんだっけ?」といった時に、役に立ちそう。小説という形をとっているためか、途中でくじけることなく通読できた。
すでにひとに貸してしまって手元にないからうろ覚えだが、解説の最後のほうに「チベットにユートピアを夢見る人にとっては、耐えがたい内容かも」といった、図星な一節があった。書名は“ダライ・ラマ”だが、ダライ・ラマ本人について書かれているのは、すでにあちこちで読んだお馴染みのエピソードだ。むしろ、神聖化されたダライ・ラマ法王という存在のもとで繰り広げられる、チベット政界・宗教界・貴族界の人間くさすぎるドロドロが(期待通りに)たっぷり堪能できた、お腹いっぱい、というのが正直な読後感。ノンフィクションとはいえ小説なので、あえて善悪のコントラストをはっきりさせた感もあるが、先々代レティン・リンポチェなどは、あまりに女狂いの放蕩者として描かれているので、かえって同情したくなったほどだ(笑)。
そういったゴシップ(?)の内容がどの程度正確なのかは確かめようがないが、それほど“知られざる”という感じも受けなかったは事実。というのは、法王の兄ギャロ・トンドゥプの暗躍にしろ、法王の父のご乱心にせよ、ネタの多くは、すでに英語で出ている現代史やダライ・ラマ関係の本などで出尽くしているのではないかと思われるからだ。でも、日本語になってくれて、ほんとにありがたい♪
そういえば、本書の終わりのほうでは、先日来日したばかりの法王の妹さんジェツン・ペマ女史も大活躍する。(今の)ダンナさんテンパ・ツェリン氏との結婚の話も出てきた。同じく来日したテンジン・テトン氏も、チベット青年会議の設立に絡んで登場していて、ちょっと嬉しかった。
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